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【後日談】よなよな
①It seem like we may have a white Christmas in Tokyo.
十二月に入った。街はクリスマス一色だが、そこかしこに施されたイルミネーションの一つにも目をくれる余裕もないまま、忙しない日が続いている。
世は忘年会シーズン。外食産業は書き入れどきである。
一志はデザイン部――飲食店を経営する会社においては、いわゆるバックオフィスだ。しかし、繁忙期に限っては、普段店に出ることのない社員が店に立つことがある。ここ数年の社内での取り組みだ。現場社員にも繁忙期に休みを取りやすくするため、バックオフィスの社員も、GWと年末年始には駆り出される。
とはいえ、学生時代もコンビニバイトくらいしかやったことのない一志には洗い物くらいしかできない。ところが洗い物、と一口に言っても家で普段やる〝洗い物〟とは大違いだ。普段からやっている人間の、何と手際のいいこと。十九歳の学生アルバイトといえども、プロフェッショナルと呼んでいい。接客や調理が覚束ないという安易な理由で、洗い場を任されていいはずがないのだ。
それでもいないよりはマシ……なはずだ。
そう思わなければ、恋人と過ごす時間を削り通常の勤務時間を超え、不慣れな洗い物と格闘する自身があまりに哀れで滑稽ではないか?
ここ半月ほど、通常業務を終えてから店に入ることが多く、いつものように瑛介と食事をとることができないでいる。
瑛介の方も飲み会が増え「気にしなくていいよ」と言ってくれてはいるものの、そろそろ一志の方が限界だ。瑛介の飯が食いたい。
「瑛介……ごめん」
『カズくん、どうしたの? 昼休みに電話なんてめずらしいね』
月半ばを過ぎた金曜日。
今日こそ通常業務で上がれる、瑛介も飲み会がない。ようやく待ちに待った、何もない日だった。つい三十分前までは。
今晩は一志のリクエストで疲れ切った胃に優しく和食尽くしの予定だ。
ふわっふわのだし巻き玉子に、天婦羅、ゴマ豆腐、大根の煮物。楽しそうに献立を考える瑛介と電話で話したのは三日前のこと。
クリスマスも近いことだし、ケーキでも買って帰ろうか――と一志が考えていた昼休み、業態推進部の部長に捕まった。
『取引先のパーティ?』
「ああ、本当にごめん……」
『仕事でしょ? そんなことで怒んないって。和食は明日にしようよ。明日は休めるんだよね?』
「ああ……」
そりゃあ、怒ったり拗ねたりするよりずっといいが……。
言葉にこそしていないが一志は今日この日を心待ちにしていた。昼休みが終わる前にと慌てて電話したわけだが、いつも通りの瑛介に一抹の寂しさを覚える。
『明日はゆっくりしようね』
電話の向こうで彼が穏やかな笑みを浮かべているのは想像に易い。瑛介は自分よりずっと大人だ。
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