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 そう。ここの半径200メートル以内には、何もない。この道もこれ以上進めばすぐに行き止まりになる。いったい彼女は何をしに、ここに来たというのか。  彼女は再び微笑む。 「別に。ここに来たいから来たの。それだけよ」 「そ、それだけ……って……あなたは、何者なんですか?」 「さあ。何者かしらね。そんなことどうだっていいじゃない。それよりも、見て」  そう言って彼女は周りを見渡す。 「え?」 「ここは一面真っ白な世界。地上も、空も、ね。だけど……知ってる? 『白』という色は存在しない、ってこと」 「ええっ?」 「色素ってね、その色以外の光は吸収するから、その色に見えるの。でもね、白の色素は存在しない。白く見えているのは、どの色も吸収しない、透明なもの。ただ、その表面がギザギザになっているから、六千度の太陽表面が発する光を、そのまま乱反射させているだけ。雪だってそうでしょ? 本来は透明な氷なのに、複雑な形の結晶だから白く見える」 「……」  雪女にしては、やけに正確な科学知識を語るものだ。確かに彼女の言う通り、白の色素、というものは存在しない。「透き通るように白い」とはまさにその通りで、白く見えているものは実は透明なのだ。 「ね? 目には見えていても、それが本当に存在するとは限らないのよ。だから……あなたに見えているこの私も……本当に存在するのかしら……ね?」     
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