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救急隊員がすぐに出動し駆けつけたが、医者の懸命な治療も虚しく、搬送された小山総合病院の手術室のブルーの手術台の上で息を引き取ったという。
心臓の鼓動が止まり、天国へと逝く直前まで母は酷い事故に巻き込まれたとは思えないほど穏やかな寝顔だった、と父は言っていた。
遺影の母の顔はどこか自分と面影が似ていた。
そういえばお父さん似だと自分では思っていたが父はお母さんに似てると言っていたな。
母が亡くなってから、父は寂しい思いを娘にさせないようにと懸命に働いてくれた。
高校生になっても家事が苦手な真子のために、料理や洗濯、掃除もしてくれた。
会話は少なかったけど良い父親だったな。
父親とは、仕事が忙しくて休日は少しでも休んでいたいとマンションの部屋に篭っていたので、かれこれ二年も会っていなかった。
一応携帯の電話番号と住所は伝えていたのだが、父から連絡を寄越してきたことは一度もなかった。彼なりに娘に気を遣ったのかもしれない。
昔からお父さんはそういう人だった。
黙々と仕事に打ち込んでおり、娘とどう接したらいいのか分からない不器用な人だった。
この手紙に返事をくれるかどうかも微妙だ。
でも、結婚の知らせだけはしておきたかった。
何の音沙汰もなしにいきなり結婚するよりは、一報いれた方がいいだろうと筆を取ったのだった。
彼も挨拶をしに行きたいと言っていた。男として、愛娘を無言で奪う訳にはいかないと息巻いていたのだ。
真子は感慨にふけりながら書いた手紙を茶色の封筒に入れ、住んでいるマンションから一番近くにある郵便局のポストへと投函しに行った。
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