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 どれ位の時が経ったか分かりません。でもナルミは目を覚ましました。ナルミは元の波打ち際にいました。お尻から下をべったり砂に着けたまま、体の上の方だけゆっくりと起こしました。不思議と寒くありませんでした。ナルミは海の方を見ました。ナルミの目の前の水の中には、一頭の白いイルカが顔だけ出していました。 「イルカさんが私を連れ戻したの?」ナルミは訊ねました。 「そうだよ」イルカは答えました。 「私は海の中の別の国に行きたいの。じゃましないで」 「お父さんやお母さんが心配するよ。そんなに別の国へ行きたいの?」 「うちのお父さんやお母さんは本当のお父さんお母さんじゃないの。私をいつもいじめてばっかりいるの」ナルミはふくれて言いました。  イルカは言いました。「でもきっと仲良くできるはずだよ」 「いや! 絶対にいや!」とナルミは叫びました。「絶対海の中の別の国へ行くの。もう決めたの。もう戻らないの。絶対行くの。行くったら行くの!」  イルカはたいそう困った顔をしました。そして言いました。「海の水は冷たいよ。水が温かくなるまで待ったら?」  ナルミは言いました。「冷たくってもいいの! 行くったら行くの!」  イルカはちょっと考えてから言いました。「あんまり冷たくって頭がぼうっとして君にはまだ行けないよ。もうちょっと大きくなってから行けば?」 「今行くの! 今じゃなきゃだめなの! ダメダメダメなの!」  イルカはまた困った顔をしました。そしてまた言いました。「そんなにどうしても今行きたいの?」 「うん! 今行きたいの」 「もうお(うち)に帰れなくても行く?」 「うん! 行くの、行くの、絶対行くの!」  イルカはしばらく顔を水の中に沈めたり、出したりしていました。そしてようやく言いました。「じゃあ僕の背中へお乗り」  ナルミは目を輝かせました。「イルカさんが連れてってくれるのね」  イルカは笑って言いました。「そうだよ。だから僕の背中へお乗り」 「うん」ナルミはそう言って、後ろを向いて水の上に出したイルカの背中へよいしょとまたがりました。  イルカはそうしてスイスイと海の上を沖の方へ泳ぎだしました。  波打ち際から沖の方へは白い波の跡が残っていました。  空はいつの間にか夜になって星がキラキラとまたたいていました。
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