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白銀と鮮血
この町には殺人鬼が いる。それは 彼女。
昇っては空に溶けていく白い息が、自分の魂みたいだと他人事のように思った。
降ってくる雪が純白に煌めいて、汚してはいけないもののように神々しい。
血液が、生命力が、滔々と脇腹から流れ出していく。肉体は激しく痛みを訴えているのに、妙に冷静で意識は覚醒している。体から体温が急速に失われていくのに、刺された箇所だけは異様に熱を持っていてくらくらしてしまう。心臓の鼓動はやたらと早いビートを刻み、ここまで心音は大きいものだったのかと驚くほどに唸り声をあげている。赤い鮮血が白い積雪に映えていて美しかった。ゆっくりと、コーヒーの染みのように血溜まりが雪の絨毯に広がる。それと共に僕の体も重くなっていく。
目線を上げると、僕に馬乗りしていて涙目な彼女。手には包丁を携えている。
「――ごめんなさい」
何を謝ることがあると言うのだろう。心の隅でこうなることはわかっていたはずなのに。
彼女の目から涙が一滴零れて、僕の頬に当たる。そして、手に構えているそれを振り上げる。
一瞬、それが雪と同じように綺麗に、とても綺麗に白銀に、煌めいて。僕は一生その白銀の輝きを忘れないだろう。
それが振り下ろされ、僕の眼前に迫る。
命の危険を感じるとこれまでことがフラッシュバックするというのは本当らしい。俗に言う走馬灯だ。なぜこうなったのか――。
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