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――あれは半年前のことか。
「私、殺人鬼なの」と、彼女が言った。
「奇遇だね、僕もだよ」
冬よりも、夏の方が夜は深いと思う。
濡れたアスファルト。光を反射して輝く雨粒。雨が降る夜更け。
ただでさえ蒸し暑い熱帯夜が、更に湿度が高まり鬱陶しさを増していた。周囲に人はいない。むしろ、雨の音しか聞こえず、世界に生命が消え去ったのかと勘違いする。
「面白い冗談だね。こんな状況を目にして軽口が吐けるって凄いと思うよ」
どうやら受けたらしい。目の前にいる女の子はおかしそうに笑っている。
僕はビニール傘をさしているが、雨の中、彼女は傘をさしていない。
代わりに手に持っているのは、包丁。街灯の下に露になっているそれは、およそ日常で見かけるであろう器具。しかしこの場この時においては違和感を拭えず、威圧感を醸している。場違いにもよく手入れされていて、綺麗だと思っていた。よくみると血液が付着していた。視線を落とすと彼女の足元には倒れた人影がある。
僕の視線に気づいたのだろう。
「あぁ、この人? もう死んでるよ」こともなげに彼女は言う。当たり前のように。
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