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鼻息荒く、ビシッと人差し指を真っ直ぐに突きつけて、何故か誇らしげに告げてくる。凄まじくめちゃくちゃな理屈でどこからどこから突っ込めばいいのか分からないが、とりあえず目の前の人間が馬鹿だということはわかった。
自分から殺人鬼だと自己紹介しといて、殺人犯よばわりするな、だなんてそれこそひどい話だ。
「そう。なら国家権力に君が殺人犯かどうか確かめてもらうとしよう」
善良な一市民として、スマートフォンを取り出して110番しようとする。
「ストップ! ストップ! そ、それは、その、ねぇ? 良くないと思います」微妙なひきつった笑顔を浮かべて、上目遣いで見つめてくる。
「何がよくないのか分からないや」
僕が止めようとしないと、そそくさと近づいてきて、スマートフォンを取ろうとしてくる。手を上に掲げると、それに追従するようにジャンプして取ろうとする。大変滑稽な姿だ。だけど包丁を右手に持ったまま、目の前を動き回らないでもらいたい。非常に怖い。動かしているのは僕だが。
彼女が近づいてきて気がついたことだが、よく目を凝らすと返り血が頬と手に付いている。
「まぁ、君が馬鹿な殺人犯だってことだけはよくわかったよ」
頬に生暖かい目を向ける。
「な、なんのことでしょう」
視線を逸らして、包丁を後ろ手で隠し、手の甲で頬を拭う。
「やっぱり血は拭っても簡単にとれないか」
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