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私の言葉に食い入るように、紗恵が言葉を発する。
私はそれに、うん、と小さく頷く。
それを見た紗恵が私の手を強く握って、大きな声を出す。
「そんなの、悪いのはあいつじゃん!あいつがいけないの!ママは、悪くないじゃない!」
先程から紗恵が連呼している“あいつ”とは、今の夫の事だ。
そうだけどね、と苦笑いを浮かべる私に、紗恵は振り絞るように叫ぶ。
「本当に、ママは何も悪くない!ママの怪我も悩みも、私の傷も。全部全部、あいつのせいだ!あいつのせいで……あいつがいかないんだ!」
そして紗恵は肩を震わせて、しくしくと泣き始める。
度々漏れる嗚咽が、何だか心苦しい。私は思わず、紗恵を両手で抱きしめる。
右手には、ライターを持ったまま。
「ありがとう。そうよね、悪いのは全部あいつのせいだわ」
紗恵の背中をそっと摩りながら、私は紗恵の言葉に、うんうん、と頷く。
紗恵が叫んだ事は、決して感情任せに話を盛ったという訳では無く、全てありのままの正しい事だった。
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