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「紗恵に手を上げたのは、あいつよ。それはあいつが悪いんだわ。でもあいつと一緒にならなければ、その痛々しい傷も生まれなかった。あいつに騙されて結婚してしまった、私もいけないんだわ」
私の言葉を、紗恵は泣きながら否定する。
「そんな事ない、それは違う!ママは、悪くないよ!」
次から次へと溢れて頬を伝う涙が、紗恵の顔のファンデーションを少しずつ落としていく。
次第にはっきりとその存在が露になる、左頬の傷。
それを見て、あいつと出会った事や結婚した事、守ってあげられなかった事等、紗恵に対する謝罪が次々と胸に溢れてくる。
「だからもう、終わりにしましょう」
「でも!でもあいつが悪いなら、あいつと離婚すればいいじゃない!」
私の言葉に、そう突っかかってくる紗恵。しかし私は、落ち着いて静かに答える。
「言ったでしょう?あいつとは、離婚できない。離婚の予兆を見せたらもう、その時点で私も紗恵も殺すとまで言っているのよ」
「でも!あ、そうだ!誰かに相談すればいいじゃない!弁護士とかに!きっと話を聞いてくれるわよ!」
新たな提案をして、目を輝かせる私を見つめる紗恵。
「駄目よ。あいつは私の実家まで、把握している。無駄な抵抗をすれば、おじいちゃんやおばあちゃんにまで手を上げる、とも脅されているわ」
しかし直後の私の言葉で、その目の輝きは一瞬にして消える。
そして、そっか、と紗恵は俯く。
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