理想郷

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 「ごめんね、紗恵」 そう言ってライターに親指をかける私の手を、紗恵がまた、両手で抑える。 そして顔を上げ、私に叫ぶ。 「でも、やっぱり死んじゃ駄目だよ!だって生きていたら、もしかしたら明日にあいつが死ぬ可能性もあるんだよ?それなのに死ぬのは、勿体ないよ!あいつの為に死ぬなんて、ママは悔しくないの?」 悔しいよ、と私は必死な形相の紗恵を見て思う。 しかし、そんなのは私にとっては重要ではない。 「ママは、そんな事はどうでもいいわ。それよりこのまま離れられないあいつと一緒にいて、紗恵にまで危害が及ぶのが、ママはたまらなく嫌なの!」 初めて私は、大声を出す。そんな私に、紗恵も負けじと、大声を出して対抗してくる。 「私の事はどうでもいいよ!」 そんな紗恵に、私も思わず対抗して大声を出す。 「よくない!ママにとって紗恵は宝物で、あの人との大切な愛の形なの!紗恵の幸せは、ママの幸せでもあるの!私は紗恵を、本当に愛しているのよ!」 叫びながら、私の目から涙が溢れる。 その涙は、決して居間からこちらに蔓延してきた煙の影響ではない。 私の心情そのものを、表現していた。     
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