<第二十七話>

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 よく聞く名探偵の言葉に、“復讐なんか良くない”“死んだ人はそんなこと望んでない”“そんなことをしても死んだ人は帰ってない”というのがある。かつて研太がそれなりにハマっていて、純哉にも貸した漫画でもそんなことを名探偵が言っていた。真っ直ぐで、正義感が強くて、女の子に知らず知らずモテていくありがちな少年漫画の主人公。それでも、かつての自分達は面白いと思って読んでいたのである。  話の展開が早くて絵が上手かった、というのもあるが。やはり、小中学生の子供はそういったキャラクターに憧れるものなのだ。多分女子であってもそうだろう。自分が選ばれた存在になれたら。名探偵のような、かっこいい正義の味方になれたら。悪者をやっつけられたら。想像するだけでワクワクしてしまうような夢の世界が、まさにそこにはあるのだ。 『でも俺、この漫画の主人公はそんなに好きじゃないんですよね。漫画そのものは面白いと思ってるから読んでるけど』  以前純哉が言っていた言葉を思い出す。てっきり彼も主人公の中学生探偵に憧れているクチだと思っていたものなので驚いたのだ。何でだ?と尋ねると、彼は。 『だって……犯人の人の気持ちにちゃんと寄り添えてないような気がして。だってこの漫画で起きる殺人事件の犯人って、大抵同情の余地があるでしょ?恋人をヤク中にされたとか、息子を殺されたとか…まあ、同情の余地のない奴もいるけど、この間の“青色祭り殺人事件”とか…ちょっと探偵や刑事さんの台詞に賛同できなくて』 『え、あれ結構名台詞だったと思ったんだけどな。ダメか?』 『ダメっていうか。……殺人は良くない、とか。そんなこと彼女さんは望んでないとか…正義って言葉を殺人に使うのは間違ってるとか。犯人の人にとってはそんなの全部、わかりきってることなんじゃないのかなって。わかっていても、他に道なんかなかったんじゃないのかなって思って』  ひとつ年上の自分より、純哉は視野が広くて――そして人の心に寄り添うのが得意だったように思う。それは漫画のキャラであっても変わらない。この場面で、この子は何を思っているのかな――とか。この悪役はどうして世界征服をしようとしたのかな――とか。必ず考えてしまうのが、純哉なのだと知っていた。  例えそれが、“主人公側だけがハッピーエンドになればどうでもいい”と大多数の読者が思うような物語であったとしても。
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