<第二十七話>

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 もっと早くこうすれば良かった。そうすれば、優しい純哉が自分の代わりに死ぬことだけは避けられたのに。部活の仲間たちを裏切ってでも、今までの人生もこれからの人生も全て棒に振ることになったとしても――少なくともこれ以上、女のせいで誰かが犠牲になることだけは避けられたのに。  全ては自分に勇気がなかったせいでこうなった。自分が、自分が独りで解決しようとしなかったから!頑張れなかったから!優しい後輩を頼ってしまったから!! ――終わらせてやる…全部、全部、全部!  足音がした。公園の入り口に停まったリムジン――そこから、コスプレ制服を着た女が降りて走ってくる。相変わらず長い髪でその表情は見えない。ただそのガサガサの、紫色の唇が大きく弧を描いていることだけはわかる。  笑っている――研太の苦しみも知らず、平気な顔で笑っている! 「研太ぁ~!」  どこかひび割れた、女性にしてはかなり低めの声が響いた。研太は全身全霊で自分に対しマインドコントロールを科していた――これが、烏丸研太、一斉一代の。そして正真正銘最後の芝居である。 「私を…待っててくれたのね、うれしいっ!」 「ああ、そうだな」 「うふふ、ふふふ…この間逃げちゃったから心配してたのよ。何かまた勘違いされてしまったんじゃないかって。でもそうじゃなかったのよね?突然会いに来た婚約者が恥ずかしくて、照れてしまっただけなのよね?」  相変わらず自分に都合の良いことばかり捲し立てる女。気持ち悪い、理解できない、吐き気がする――その何度も人をオカズにしやがった汚い手で触るな――そう言いたいのを死ぬ気で堪えて、研太は問いかける。 「なあ、訊いてもいいか?」  これだけは、確かめると決めていたのだ。それは万に一つ、億に一つの可能性を潰すための――最後の善意。 「純哉…楠純哉を殺したのは、アンタか?俺とダブルス組んでた、後輩なんだけど」  犯人が万が一他にいたなら――いや、この女が自分のストーカーである事実は揺らがないにしても、この女以外に犯人がもしもいたのなら、その場合は標的を増やさなければならなくなるかもしれない。  しかし、そんな研太の懸念は、完全に杞憂に終わった。
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