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「………ああ、あの背が高いだけの、ガキね?」
女の声が、さらに低くなる。
「ええ、ええそうよ?だって私の研太を私から奪おうとするんだもの。婚約者の私から、男の癖にあなたを騙して寝取ろうとしたのよ、私ちゃんと知ってたの!あいつが、あいつらがいるから私の研太が男なんかが好きだなんて気持ち悪い誤解をしてしまうのよ…!男同士で恋愛なんて気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!絶対有り得ないじゃない、研太には私がいるのに!将来を誓いあって、キスもセックスも交わした私がいるのにっ!!」
「だから、殺した?」
「そうよ!正当防衛みたいなものだわ、私の心を壊して、私達の未来を殺そうとしたんだものっ!!」
女は狂ったように高笑いをした――それを見つめる研太の眼が、どんどん凍っていくことに気がつかぬまま。
都合の良いものしか見えない女に。自分を憎む“恋人”など、存在するはずがないのだろう。
「だから刺したわ、いっぱいいっぱいいっぱい刺したわ!あの馬鹿の顔を貴方にも見せてあげたかった…っ包丁を出したらあんなに驚いちゃって!逃げようとするから何回も背中から刺してあげたわ、ひっくり返してお腹も刺したわ!痛い痛いって悲鳴を上げるのが爽快だったわ、ざっまぁってやつよ!私達の未来を邪魔したことを地獄で反省すればいいのよ、いい気味だわ!正義の鉄槌が下ったのよ、ぎゃはははは、ははははははははっ!!」
醜い、醜い――聞くに絶えない笑い声。ああ、と研太は思った。自分は一体――何を間違えたのだろう、と。
この世には、存在してはいけない者がいる。誰もが生きている価値があるなんて、そんなのは嘘っぱちだ。わかっていたではないか――生きているだけで、存在するだけで人を苦しめる者がこの世にいるなんてことは。
――もっと早く、殺せば良かった。
こいつは生きているだけで――悪だ。ただそこに存在するだけで人を不幸にする害虫だったのだ。
何を躊躇う必要があったのか。こんなくだらない奴に苦しめられているだけ、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるではないか。
「……なあ」
憎悪を押し込めて――研太は全身全霊で、嗤った。壮絶に――凄絶に。
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