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「キス、しないか」
「え」
「したくない?したいなら…眼を閉じてくれよ」
ほら、もうすぐ夢が叶う。クソくだらない、気持ち悪い妄想が現実になると、そう喜べばいい。
その瞬間が――お前の、最期だ。
「し、したいわ…!ああ、うれしい、うれしいわ……っ!」
女は身をくねらせて悶えた後、眼を閉じて――ぐに、と唇を突き出した。何かの少女漫画の真似でもしているつもりなのだろうが、最高に醜悪な顔で笑うしかない。
これだけ近づけば、髪の毛に隠れていても多少女の顔は見える。女が目蓋を閉じたのを見て――研太はコートに手を入れた。
――楽に殺してなんぞやるものか。
まずは脚を刺そう。歩けなくなれば最悪死に至らしめることはできなくても、もう追い回されることだけはなくなるはずである。
そうすれば解放される。純哉の痛みも、きっと少しは報われるはず。
――苦しめ、痛がれ……俺達が受けた痛みの分、失ったもんの分、お前がっ……!
バタフライナイフを振り上げる。これでもう、全ての苦しみが、終わる――!
「やめろ――――――ッ!!」
強い力で突き飛ばされて、研太は公園の土の上に転がった。何が起きた、ナイフは――そう思って見つめた先。飛ばされたナイフを、誰かの手が拾うのが見えた。
「……駄目だ」
拾い上げたのは――制服を着た、見知らぬ女子高生。
「駄目だ、烏丸研太。……それじゃ、駄目なんだよ」
そう、見知らぬはずなのに。
彼女は研太を見て――悲しげに、くしゃりと顔を歪めたのだった。
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