<第二十七話>

6/6
前へ
/180ページ
次へ
「キス、しないか」 「え」 「したくない?したいなら…眼を閉じてくれよ」  ほら、もうすぐ夢が叶う。クソくだらない、気持ち悪い妄想が現実になると、そう喜べばいい。  その瞬間が――お前の、最期だ。 「し、したいわ…!ああ、うれしい、うれしいわ……っ!」  女は身をくねらせて悶えた後、眼を閉じて――ぐに、と唇を突き出した。何かの少女漫画の真似でもしているつもりなのだろうが、最高に醜悪な顔で笑うしかない。  これだけ近づけば、髪の毛に隠れていても多少女の顔は見える。女が目蓋を閉じたのを見て――研太はコートに手を入れた。 ――楽に殺してなんぞやるものか。  まずは脚を刺そう。歩けなくなれば最悪死に至らしめることはできなくても、もう追い回されることだけはなくなるはずである。  そうすれば解放される。純哉の痛みも、きっと少しは報われるはず。 ――苦しめ、痛がれ……俺達が受けた痛みの分、失ったもんの分、お前がっ……!  バタフライナイフを振り上げる。これでもう、全ての苦しみが、終わる――! 「やめろ――――――ッ!!」  強い力で突き飛ばされて、研太は公園の土の上に転がった。何が起きた、ナイフは――そう思って見つめた先。飛ばされたナイフを、誰かの手が拾うのが見えた。 「……駄目だ」  拾い上げたのは――制服を着た、見知らぬ女子高生。 「駄目だ、烏丸研太。……それじゃ、駄目なんだよ」  そう、見知らぬはずなのに。  彼女は研太を見て――悲しげに、くしゃりと顔を歪めたのだった。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加