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心を真っ白に
私の心は真っ黒だ。
きっとこれは、母親ゆずりなのだろう。
私の両親の結婚は、いわゆる略奪婚というやつだったらしい。父には元々、他に婚約者がいたそうだ。しかし私の母との間に〝既成事実〟ができてしまったことによって、父は婚約を解消せざるを得なくなった。
その〝既成事実〟というのが、つまりは私である。
そうまでして手に入れたいほど、母が父のことを愛していたというのであれば、それでもまだ可愛げのある話だったかもしれない。しかし母の心根は、もっとどす黒いものだった。
母がそのような行為に及んだ動機は、憎悪だったのだ。それも、憎まれる側には何の非も無い、八つ当たりと言って良い類の憎悪である。
両親に疎んじられて育ってきた母は、自分とは逆に幸福な家庭に生まれ、周囲の人に愛されて育ってきた当時の父の恋人を、ただそれだけの理由で憎んでいたのだ。
「婚約解消を告げられて、私の腹にはもうあんたが――自分の元婚約者と私の子がいると知らされた時のあの女の顔ときたら、最高だったね」
当の私にそんな話を、まるで手柄話か何かのように語って聞かせる時点で、母がろくでもない人間だということは、よく分かるかと思う。
そんな心が真っ黒に汚れた人間だから、バチが当たったのだろうか。母は私が中学に上がってすぐの頃、事故によって帰らぬ人となった。
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