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「昨日うちらが作ったパン見てた。ラインで流れてる時は、何千個と見てるとよくわからんくなるから。こうやってパン棚で見ると、どんだけ品質悪いかよくわかる」
そう言って、百瀬は同じ種類の違うパンを手に取ってまた眺め始める。
端は胸の奥を抓まれたような感覚に陥った。
思考が一瞬止まる。
次に動き出した時には、どこから生まれたのかわからない焦燥が全身を覆っていた。
「そんなの見てどうすんの? 無駄でしょ。買う人も気にしてないと思うけど」
声が震えている。怒りを抑えているからだと端は思った。
怒り?
何に?
百瀬はパンから目を離し、ゆっくりと端の方を見た。
真っ直ぐな視線。
「何が無駄?」
百瀬の視線が、端の呼吸を止める。
「何が無駄なん?」
呼吸を止めるのは、投げられた疑問か。
それとも、重い空気のせいか。
たくさんの鉛玉に埋められている気分になる。
百瀬は溜息をついた。
呆れたように。
呆れられたのか、俺は。
止まった呼吸のせいで思考がうまく動かない。
「このパン、ぼそぼそしてまずそう。こんなん、誰も買わんわ」
そう言って、百瀬はコンビニから出て行った。
1人残された端は、一連のやり取りを頭の中で繰り返していた。
なんだよ。
なんだよ、偉そうに。
端の右手の拳は握り締められ、苦しそうに震えている。
「こんな仕事、俺はやるつもりなんてなかったんだ」
呟いてから我に返り、レジにいる店員の視線を掻い潜るように外へ飛び出した。
冷たい風が顔に吹き付ける。思わず首を竦める。
家に向かって歩きながら、どうしようもなく孤独と虚しさを感じる。
今の仕事を、やりたいと思えるようになるのだろうか?
自分の仕事にプライドなんて持てるようになるのだろうか?
自問自答を繰り返し、家路に着く。
部屋の窓から見上げる空は、曇っているのか月も星も見えず、いやに暗く見えた。
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