一と千

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一と千

 入店する時に流れるメロディが軽快で、つい口ずさんでしまう。  ふわふわとしたソーセージパンは毎日並べられている。  端がそれを眺めていると、後から来た客の1人が横から手を伸ばし、それを掴んだ。 「これ、おいしいんだよな」  一緒にいる友達にそう語り掛けている。  それ作ったの、俺です。  そう言いたくなる衝動を抑える。作っている人間のことなどどうでもいいのだ。  おいしいパンを手に取ってもらえたら、それでいい。  みんながパンを食べて、おいしいと空腹を満たし、心も満たしてくれればいい。  端はそう思いながら、コンビニを出て、工場の方へ歩き始めた。  焼きたてのパンのいい匂いを、嗅ぎながら。
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