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霧の月九日夕刻・ダンジョン・ダイニングキッチン
陥落したヴァイスブルクで条約妥結式とそれを言う悪趣味な宴が催されていた頃、魔王のダンジョンでもささやかな宴が催されていた。
狩猟と採取に行ったライナ達は見事な牡鹿を1頭と山鳩や鴨を10頭、そしてかなりの量の山葡萄や野生のオレンジ等の果実を手土産に帰還し、ライナ達の持ち帰ってきた収穫物を目にしたアイリスは上機嫌でそれらの材料をダイニングキッチンまで運ばせた後に手伝いを申し出たミランダと共に料理を開始した。
エプロンを着たアイリスとミランダは手慣れた手つきでライナ達が解体した牡鹿の肉を切り分けて行き、アイリスの手慣れた手つきを見ていたミリアリアは感嘆の表情を浮かべながら口を開く。
「凄いな、ミランダ殿は料理上手で名が通っているんだが、それに勝るとも劣らない手つきだな」
「……あら、嬉しい事言ってくれるのね、そんなに言ってくれるならもっと張り切って作らなきゃならないわね」
ステーキ用の牡鹿の肉を切り分けたアイリスはミリアリアの称賛の声に満足気な表情を浮かべながら下拵えを終えた山鳩の腹に採取された香草類を詰め、その様子を目にしたミランダはステーキ用のオレンジソースの準備をしながら口を開いた。
「……中々の手際ですね、正直驚いてます」
「……フフフ、魔王が料理上手だなんて中々珍しいでしょ」
ミランダの言葉に対して悪戯っぽい微笑みと共に応じるアイリスだったが魅惑的な肢体を惜し気も無く去らす扇情的な装いの上からエプロンを纏うという姿は見る者を妖しい想像に誘い、誘われてしまったライナ達は頬を赤らめながら小声で話し合い始めた。
「……なあ、アイリス様のエプロン姿なんだが」
「……やっぱ、そう思っちゃうよね」
「……ミリアリア様も不自然なくらい露骨にアイリス様のエプロン姿見ないようにしてるものね」
ライナ達は頬を赤らめながら小声で会話を交わし、耳敏くそれを耳にしたアイリスは殊更に手際を褒めているミリアリアに向けて蠱惑の笑みと共に口を開く。
「……ねえ、あたしのエプロン姿、どうかしら?」
「……えっ?……そ、それは、その、に、似合ってると思うぞ」
アイリスから突然問いかけられたミリアリアは頬を赤らめさせながら口を濁し、その様子を目にしたアイリスはミリアリアの正面に立つと悪戯っぽく微笑(わら)いながら言葉を続ける。
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