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その日もお手伝いさんは、フロマージュの首にふろしきを巻きながらぶつぶつ独り言。
「今日はどんなお献立にしようかしら。ご主人はお肉がお好きだから牛肉だね。でも、最近はちょっと太り気味だから、薄切りのお肉にして・・・。ううん、お献立を考えるのは大変だね。思いつかないよ。いいかい、フロマージュ、お肉の薄切りとだけ書いておくけど、ちゃんと八百屋と酒屋にも行くんだよ。そしたら適当に材料を入れてくれるから。でも、こないだなんか牛ひれ肉と書いておいたら、あひるの肝まで入ってたよ」
フロマージュは思い出してしっぽをふった。
(フォアグラだよ)
「それにキノコの薄切りも入ってたね。赤ワインでソテーしたらとてもおいしかったけど」
フロマージュは、たまらず口の回りのよだれをなめながら、
(トリュフだよ。みごとな「牛ひれ肉のロッシーニ風」だったな!)
「いいかい、今日はもうちょっと軽めがいいんだからね。じゃ、フロマージュ、たのんだよ!」
フロマージュはしっぽをふって、マルシェへと向かった。
(ははん、牛の薄切りなら、サルティンボッカ・アッラ・ロマーナだな?)
つんととがった鼻をくんくん鳴らしながら、フロマージュは急いだ。
(いい仔牛のヒレ肉があればいいんだけど)
まだそう遅い時間ではなかったが、夕日がフロマージュの影を長く伸ばしていた。
挿し絵 たやすもとひさ
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