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フロマージュは、まず肉屋に向かった。わんわんと吠えると、顔馴染みの肉屋の主人が、肩ひものひとつしかないまえかけをして、肉切り包丁をかちゃかちゃいわせながら出てきた。
「お、フロマージュじゃないか。こないだのロッシーニ風はうまかったろ?お前もありつけたか?よしよし、さあメモを見せてみな」
主人は首輪からメモをとると、ふむふむと読んだ。メモにはただ「牛薄切り肉」とだけ書かれていた。
「ははん、牛薄切りね。ご主人は肉が好きだし、薄切りでもしっかりと食べごたえのあるのがいいよな。とくれば、サルティンボッカ・アッラ・ロマーナだろ。ほら、ほっぺたが落っこちるってやつだよ。待ってな、いいひれ肉がある。薄く切っても上等なひれはうまいぞ」
主人は奥に入っていって、しばらくして大きな包みをもって出てきた。
「ほら、フロマージュ。仔牛のひれ肉、最高のがあった。つまみ食いするんじゃないぞ!」
フロマージュは、ひれ肉を慎重にスライスしている肉屋のじゃまをしないように、ちょこんとお座りをして待った。作業が終わり、薄切り肉がきちんと包まれ、肉屋がふろしきに入れようとすると、フロマージュはわんわんと吠えた。
「なになに?お、そうそう、生ハムだな。メモには書いてなかったけど・・・待ってな!」
主人は首輪のふろしきにひれ肉と生ハムの包みをしっかりと結びつけると、フロマージュの頭をなでた。
「ちょっと多めに入れといたから、きっとお前の分も残ると思うよ。じゃ、またな!」
フロマージュはしっぽを振ると、とことこと八百屋に向かった。
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