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「いつか完成した、君の絵を見てみたい。」と。
彼女は彼のその願いを、叶えようとしていた。
彼は癌だった。
死の宣告を受けて、一年以上が経つ。
彼女は毎日、彼のお見舞いに行きながら、合間をぬって絵を描いていた。
その甲斐あって、絵は彼がまだ生きているうちに、完成した。
完璧なペガサスの絵だった。
白いペガサスではない。
虹色のペガサスだ。
彼が色んな夢を語った様に、色んな夢の詰まった、ペガサスだった。
彼女は急いで絵を持って、彼の居る病院へと向かった。
生きているうちに絵を見て貰えるのは、彼が初めてだった。
移動中、彼女は必死で、心の中で祈った。
「どうか神様、彼をまだ連れて行かないで。」
病院に着くと、彼女は彼の病室へと向かう。
「どうか…どうか…。」
病室のドアを開けると、彼の笑顔が見えた。
彼は可笑しそうに、笑っている。
彼女は息を切らせながら、ベッドへと近寄った。
「見て。」
彼女は彼に、完成した絵を見せた。
絵を見た彼の瞳からは、涙が溢れ出していた。
「完成したんだね。ついに、完成させたんだね。」
彼は涙を流しながら、じっと絵を見つめる。
「何て…何て綺麗な絵なんだ…。」
涙を流しながら、絵見つめる彼の目は、もう何も見えてはいなかった。
完全に、視力を失っていたのだ。
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