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それでも彼女の絵が完成し、美しい絵だと言う事は、目が見えなくても分かった。
彼女の息遣いで分かる。
こんなにも息を切らせ、慌ただしく入って来る理由は、一つしかない。
絵が完成したと言う事。
彼はそっと、キャンパスに手を触れた。
指で絵をなぞっていく。
「あぁ…ペガサスだね。」
彼は指で触れた輪郭で、絵を言い当てる。
彼女は嬉しそうに笑った。
「色も当ててみて。」
彼はまた指を一本一本使い、キャンパスをなぞっていく。
「これは…虹色かい?」
彼女はまた、嬉しそうに笑った。
「そうよ。虹色のペガサスよ。」
「夢があっていいね。まるで僕みたいだ。僕は夢ばかりを、語っていた。」
そして彼は、そのまま手を、キャンパスから彼女のお腹に移動させる。
「この子にも、沢山夢を持って欲しい。」
彼が掌で、優しくお腹を撫でる。
そこには、新しい命があった。
その三日後、彼は力尽きた。
まるで彼女の絵の完成を、待っていた様に。
彼女は満足だった。
一番見て欲しかった、一番大切な人に、完成した絵を見せる事が出来た。
彼の望みを、叶えられた。
他の人は、笑うかもしれない。
目が見えていない相手に見せて、果たして本当に、見て貰えたと言えるのだろうかと。
だが絵を見る方法は、一つだけじゃない。
目だけでなく、心の目でも見る事が出来る。
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