第16章

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リオンは自分の胸元を掴みながら、必死に見上げる。 「一国の王子が民の幸せを願う。けれど黒の妖精は、それを滅ぼしてしまう。民の多くの命と黒の妖精の数少ない命、守るべきは民の方さ!」 しかも黒の妖精が多くの命を奪うというのだから、尚更。 「おかしいのは君の方さ。僕は王子として、当然な考え方なだけ」 グルーヴが話している最中も彼女の意識は既に限界になり始めるが、彼の言葉を決して聞き漏らすことなく、集中していた。 もう思考はほとんど働いてはいない。 だが、彼女は声を精一杯振り絞った。 「……違う、当然なんかじゃない……っ」 「ほう」 グルーヴは彼女の頬を片手で掴み上げた。 「……げほっ」 器官が詰まり、更に呼吸困難に陥る。 無理矢理な力に対抗するように、リオンは彼から目を反らさない。 「誰かの犠牲で……人の幸せなんか、存在、しません……っ!」 それがどんな形であっても。 彼女のこの心情だけは、誰にも負けない自信があった。 「可愛くないね。本当は喋るのも辛いだろうに、そんなに僕に反抗したいのかい?」 「……グルーヴ!?」 「おやおや、邪魔が入ったようだ」 リオン達のいる廊下の数メートル先の方で、走り寄ってくるのはユーフェンだった。 青ざめている彼女を見て、ユーフェンはグルーヴを睨みつける。 「グルーヴ、彼女に何を……」 「誤解しないでくれたまえユーフェン殿! 彼女は隠の気を受けたようでね、僕の陽の気で助けてあげてたのさ」 リオンの跪は床についたまま、手は苦しさからギュッと自分の服を掴んでいる。 もうグルーヴを見上げる気力もない。 ユーフェンはリオンの両肩を掴むと、自分の方へと引き寄せた。 「落ち着いて。ゆっくり深呼吸してごらん」 (ユーフェン……) 言われた通りに深呼吸する。 白の妖精である彼の陽の気が、彼女を地獄から救い出す。 少しずつ、少しずつ、呼吸が正常になっていく。
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