0人が本棚に入れています
本棚に追加
リオンは自分の胸元を掴みながら、必死に見上げる。
「一国の王子が民の幸せを願う。けれど黒の妖精は、それを滅ぼしてしまう。民の多くの命と黒の妖精の数少ない命、守るべきは民の方さ!」
しかも黒の妖精が多くの命を奪うというのだから、尚更。
「おかしいのは君の方さ。僕は王子として、当然な考え方なだけ」
グルーヴが話している最中も彼女の意識は既に限界になり始めるが、彼の言葉を決して聞き漏らすことなく、集中していた。
もう思考はほとんど働いてはいない。
だが、彼女は声を精一杯振り絞った。
「……違う、当然なんかじゃない……っ」
「ほう」
グルーヴは彼女の頬を片手で掴み上げた。
「……げほっ」
器官が詰まり、更に呼吸困難に陥る。
無理矢理な力に対抗するように、リオンは彼から目を反らさない。
「誰かの犠牲で……人の幸せなんか、存在、しません……っ!」
それがどんな形であっても。
彼女のこの心情だけは、誰にも負けない自信があった。
「可愛くないね。本当は喋るのも辛いだろうに、そんなに僕に反抗したいのかい?」
「……グルーヴ!?」
「おやおや、邪魔が入ったようだ」
リオン達のいる廊下の数メートル先の方で、走り寄ってくるのはユーフェンだった。
青ざめている彼女を見て、ユーフェンはグルーヴを睨みつける。
「グルーヴ、彼女に何を……」
「誤解しないでくれたまえユーフェン殿! 彼女は隠の気を受けたようでね、僕の陽の気で助けてあげてたのさ」
リオンの跪は床についたまま、手は苦しさからギュッと自分の服を掴んでいる。
もうグルーヴを見上げる気力もない。
ユーフェンはリオンの両肩を掴むと、自分の方へと引き寄せた。
「落ち着いて。ゆっくり深呼吸してごらん」
(ユーフェン……)
言われた通りに深呼吸する。
白の妖精である彼の陽の気が、彼女を地獄から救い出す。
少しずつ、少しずつ、呼吸が正常になっていく。
最初のコメントを投稿しよう!