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「楽になっても動いちゃダメだよ。暫くは僕の傍に居て」
ユーフェンの胸に頭を預けたまま、彼女は黙って頷いた。
頭の痛みも大分落ち着いてくる。
「グルーヴ、応接間でアシュリと父上が待ってる。先に行っててくれないかな」
ユーフェンは彼女の体を片手で支えながら、応接間のある方向を指差した。
グルーヴは仕方ないとでも言うように、息を吐く。
「わかったよ。だが事を終えたらすぐに来たまえユーフェン殿! マイハニーが待っている!」
ユーフェンは「わかってる」と返事をすると、応接間に向かうグルーヴの背中を見送った。
(私、二人を敵に回してる)
アシュリとグルーヴ。
どちらも理由は違うものでありどうしようもないものだが、何て自分は世渡りが下手なのだろうと痛感する。
「リオン、立てる?」
ユーフェンの声が、耳元で響いた。
ふと見上げると、そこには心配そうな彼の瞳があった。
「あ、うん! も、もう大丈夫だよ」
彼の気で、ほとんど体の調子が元に戻っている。
リオンは慌てて離れると立ち上がった。
「……!」
だが隠の気が完全に抜けきっていないのか、足が充分に立たない。
彼女は倒れるように壁にもたれてしまった。
「リオン、僕に捕まって。部屋まで送ってあげるから」
ユーフェンは彼女の手を引き、背中に腕を回す。
もう片方の手は、彼女の足を持ち上げた。
(お、お姫様抱っこ……!)
初めての経験に、赤面するリオン。
ユーフェンの息遣いが、すぐ傍で聞こえてくる。
「ご、ごめんね、ユーフェン。重いでしょ?」
「大丈夫、軽いよ。それに君の部屋まで近いから平気」
ここはユイランの部屋を少し越えた廊下だ。
リオンの部屋までは、本当にすぐに着く。
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