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(やだ……嫌だ……っ)
まるで、心を握りしめられたように感じる胸の痛み。
ユーフェンが、あの二人の元へ行く。
それがどういう意図であっても、彼女には耐えることができなかった。
「……ないで」
「……リオン?」
発言を聞き取れなかったユーフェンは、彼女の傍に近付く。
彼女から笑みは消えていた。
そこにあるのは、ただ辛そうな顔だけだ。
「ユーフェン、行かないで」
自分が我が侭を言っていることに、彼女は気付いていた。
相手を困らせてしまうことも、わかっていた。
それでも、溢れ出す気持ち。
流れ出る感情。
「どうしたの?」
グラスを握る彼女の手は、僅かに震えていた。
それに気付いた彼は声をかけるが、泣きそうな顔をしたまま、黙るだけ。
彼はリオンに触れようとするが、突如外に異変が起こった。
空を駆け巡っていた稲妻が、とうとう痺れを切らしたように――落ちた。
ガシャ――ンッ
「……っ!」
二つの音が、重なり合った。
震えていた彼女の手から滑り落ちたグラスは、床に破片となって散らばっている。
そして、プツリと視界が真っ暗になった。
「……停電!?」
どうやら城中の電気が消えたらしく、廊下では使用人達が慌てふためいている。
「大変だ、皆混乱して……っ」
「ユーフェン……!」
真っ暗で何も見えない。
だからこそ、募る不安。
「ユーフェン、いやだ……っ」
この暗闇の中、彼は行ってしまうかもしれない。
――自分を置いて。
「行かないで……!」
もがくように、彼を探すように必死に手を伸ばす。
「……リオン! それ以上歩いちゃいけない!」
床に散らばったグラスの破片は、暗闇の中、鈍く光っている。
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