第17章

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「ユーフェン、もう少し……もう少しでいいから……」 ここに、居てほしい。 自分の傍に。 「わかったよ、わかったから」 ユーフェンは、彼女が伸ばす手を握る。 リオンが破片を踏まないよう、自分が彼女の方へ移動した。 「ここに居るよ」 リオンの手が、ユーフェンの頬に触れる。 徐々に感じる彼の体温。 (あったかい……) 彼の頬から手を動かし、髪に触れる。 ふわふわと、まるで小動物を触っているよう。 リオンの手を、ユーフェンは拒まない。 されるがままに、彼女の手の動きに神経を寄せる。 「……ユーフェン、私……」 もう、だめだ。 気持ちという水が、コップから溢れ出る。 「私、ユーフェンのことが……」 言いかけて、はっとした。 この後の言葉が出てこないのだ。 『勘違いしちゃって、バカみたいね』 今になって思い出すアシュリの言葉。 そして、第一王子というユーフェンの立場。 受け入れて、くれるのだろうか。 (私、口にしていいのかな……) 『好き』 たったの二文字であるのに。 「……リオン?」 なかなか言い出さない彼女の両頬を、包み込むように両手で触れる。 暗闇に次第に慣れてきた瞳が、彼の姿を捕えた。 「リオン、僕は君の傍に居るよ」 暗い中でも感じる彼の表情。 彼の気持ち。 「だから、震えないで」 激しい雨音にかき消されそうな程の声。 だが、その言葉はリオンの心に深く広く浸透した。 声を出してしまえば涙声になりそうで、彼女は口を閉じたまま、コクリと頷く。 (嬉しい……。その言葉だけで充分だよ) 冷たかった手のひらも次第に熱を帯び、安心からか震えも止まっていた。 (勘違いでもいい。私は……) リオンはユーフェンから手を離すと、うっすらと見える彼の瞳を見て微笑んだ。 「……ありがとう。私、もう大丈夫だよ」 アシュリの言葉が本当でも、彼を信じるだけ。
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