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リオンは部屋の扉を指差した。
「ユーフェン、行かないとね。皆、ユーフェンを待ってるんだもんね」
応接間ではアシュリやグルーヴ、王様。
停電している今、混乱している使用人達を鎮めるのもユーフェンの役目。
「……うん。じゃあ僕は行ってくるよ」
ユーフェンも彼女から手を離した。
離れていく体温が、少し名残惜しい。
「灯りがつくまであまり動いちゃダメだよ。破片に気をつけて」
足元に散らばっている破片を跨(また)ぐと、彼は部屋を出て行った。
騒がしい使用人達の元に。
「……私は大丈夫。もう寂しくない」
ちゃんと心に、残っているから。
ユーフェンの言魂が。
温かい、体温が。
「……っ」
途端に視界が明るくなった。
暗闇に慣れた瞳が、眩しさで上手く開けられない。
電気がついたのだ。
(ユーフェンだ……)
リオンは外を見た。
未だ降り続ける雨が、少しおさまっているようだった。
「ユー兄様!」
応接間を開けたユーフェンに飛び付くアシュリ。
胸にしがみつき、白い肌をした額をそこに付ける。
「ユー兄様、今までどこに行ってらしたの? 停電になりましたし……、わたくし恐かったです」
「ごめんね、アシュリ。遅くなっちゃって」
彼はアシュリを自分から離すと、一つに結わえた長い髪を軽く撫でた。
彼女は嬉しそうに目をつむり、彼の服にすがる。
それを見ていたグルーヴは、眉をしかめた。
「……ふむ、ユーフェン殿。もしやさっきまでずっと……あの子の所に居たのかい?」
「……っ!?」
途端に、アシュリの表情が冷ややかに変わる。
「そ、そうですの? ユー兄様、今までリオンと一緒に……?」
ユーフェンは困ったように微笑むと、彼女の肩を軽く叩いた。
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