0人が本棚に入れています
本棚に追加
ただ、ユーフェンが行ってしまうことの方が恐かった。
「……ガラス、捨てに行こう」
彼女は袋を持って、自室の扉を重々しく開ける。
ユイランの部屋の前を通り、また焼却室に向かう。
「……?」
雰囲気が、変わった。
奇妙で、嫌な空気。
一度感じたことのある殺気。
淡いピンクの唇はにっこりと笑ってはいるが、丸く大きな瞳はリオンの姿を離さない。
何かの呪縛にでもかかってしまったかのようだ。
「……ア、シュリ様……?」
ガシャリ、と持っていた袋を落とした。
焼却室での出来事が思い返される。
あの時は急な雨で話は途切れたが、ここは室内。
逃げ道はない。
(恐い……)
今度は一体何を言われるのだろう。
何を責められるのだろう。
可愛らしい口から発せられるのは、悪魔のような囁き。
声を聞くことに、恐怖を感じる。
「……リオン」
呼ばれて、心臓がはねあがる。
返事をすることもできず、恐る恐るアシュリを見る。
彼女はもう、笑ってすらいない。
「ねぇリオン。あたし、時間がないの」
発言とは裏腹に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
まるで、一言一句聞き洩らすな、とでも言うように。
「だから、短刀直入に言うわ」
その後発せられた言葉は呪文のように、リオンを動けなくした。
心の芯が、折られてしまいそう。
また、心に迷いが生まれそう。
「あたしね、ユー兄様のお嫁さんになるの。もう婚約もしてるのよ?」
頭が、混乱する。
「たかが使用人のくせに、でしゃばらないで」
動けない。
足が床に吸い付いてしまったかのように、言うことを効かない。
「婚約……?」
(そんなこと、ユーフェン一言も……)
アシュリは長くまとまった自分の髪を手で払う。
最初のコメントを投稿しよう!