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柔らかな髪が雨に濡れしっとりと肌にへばりつき、可愛らしいワンピースは、萎れた花のように可憐さを失っている。
「……アシュリ様!」
リオンは息を切らしながら走り着く。
来る途中に持ってきたタオルをアシュリの頭にかけた。
「一体どうしたんですか、一人で……。早く中に入らないと風邪を……!」
リオンはアシュリの腕を掴み城の中へと促したが、彼女はその手を振り払う。
「……アシュリ様?」
唇を噛み締める王女。
大きくて丸い瞳は細められ、地面を睨みつけている。
「……どうして……どうして……?」
ぎゅっと握りしめる拳。少し、震えているようだ。
「こんなに……こんなに好きなのに……っ。あたしにはユー兄様しかいないのに!」
「アシュリ様……」
小刻みに震える肩に触れようとしたリオンだったが、その手は目的を果たさなかった。
目と目が合ったその瞬間、体が石像になってしまったかのように動けなくなってしまった。
その時のアシュリの瞳は、とてつもなく冷たいものであり、蛇に睨まれた蛙とは、まさにこのことを言うのであろう。
王女は自嘲するように口端を上げた。
「……でもあたし、あんたよりはマシなんだから」
アシュリはリオンを睨みつけたまま、視線を反らさない。
そして、反らさせもしない。
「ユー兄様を何も知らないあんたより、あたしの方が兄様に近いもん!」
王女は頭にかかっていたタオルを掴み、リオンに投げつけた。
痛みはないものの、突然のことに短く悲鳴を上げる。
ふとアシュリをると、桜色の頬を伝う雨が、涙のように見えた。
(泣いてる……?)
それが果たして雨なのか、涙なのかリオンにはわからなかったが、歯を食いしばるアシュリに問うことはできなかった。
リオンに決して弱さを見せまいとする王女の意地が露になっていた。
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