第18章

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アシュリは叫ぶように言った。 「あんたなんか研究室に何があるかも知らないくせに! それなのに、ユー兄様を好いてんじゃないわよ!」 「あ……っ」 それだけ言うと、未だ降り続ける雨の中、アシュリは城に背を向け走って行った。 去って行くその背中が、彼女にはとても悲しく見えて。 (ユーフェン……) ポケットに眠る、ユイランから貰った研究室の鍵を確かめるように、指先でそれに触れる。 『研究室のこと、何も知らないくせに』 リオンは鍵を握りしめると、その足を城へと向けた。 そう、研究室へと――。 全速力で走り、濡れた地面に足が取られそうになった。 それでも走り続けて息が上がった頃、アシュリはようやく足を止めた。 「……うっ、く……」 ずっと堪えていたもの。 ユーフェンといるときもリオンといるときも、声は出さずに堪えていたものが溢れ出す。 枷が外れたかのように、涙が止まらない。 「……ユー兄様ぁ……っ、ごめんなさい……っ」 崩れるようにその場に座り込み、ビシャリと泥がはねる。 だが彼女は何も気にはならなかった。 もう何もかも、どうでもいいことのように感じられた。 (ユー兄様……、次お会いしたときは口、きいてもらえないかな……) 王女は灰色の空を見上げた。 丸く冷たい粒が、ポツポツと自分の顔に当たる。 まるで、自分の汚い部分を洗い流してくれているかのよう。 (ユー兄様……) どんなことがあっても、加速する想いは止まらない。 ――どんなことがあっても。
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