0人が本棚に入れています
本棚に追加
アシュリは叫ぶように言った。
「あんたなんか研究室に何があるかも知らないくせに! それなのに、ユー兄様を好いてんじゃないわよ!」
「あ……っ」
それだけ言うと、未だ降り続ける雨の中、アシュリは城に背を向け走って行った。
去って行くその背中が、彼女にはとても悲しく見えて。
(ユーフェン……)
ポケットに眠る、ユイランから貰った研究室の鍵を確かめるように、指先でそれに触れる。
『研究室のこと、何も知らないくせに』
リオンは鍵を握りしめると、その足を城へと向けた。
そう、研究室へと――。
全速力で走り、濡れた地面に足が取られそうになった。
それでも走り続けて息が上がった頃、アシュリはようやく足を止めた。
「……うっ、く……」
ずっと堪えていたもの。
ユーフェンといるときもリオンといるときも、声は出さずに堪えていたものが溢れ出す。
枷が外れたかのように、涙が止まらない。
「……ユー兄様ぁ……っ、ごめんなさい……っ」
崩れるようにその場に座り込み、ビシャリと泥がはねる。
だが彼女は何も気にはならなかった。
もう何もかも、どうでもいいことのように感じられた。
(ユー兄様……、次お会いしたときは口、きいてもらえないかな……)
王女は灰色の空を見上げた。
丸く冷たい粒が、ポツポツと自分の顔に当たる。
まるで、自分の汚い部分を洗い流してくれているかのよう。
(ユー兄様……)
どんなことがあっても、加速する想いは止まらない。
――どんなことがあっても。
最初のコメントを投稿しよう!