第19章

4/9
前へ
/38ページ
次へ
「ユイランが部屋に落ちてたって……」 言うと、彼女は頭を下げた。 スカートの裾をぎゅっと握りしめて。 「ごめんなさい! どうしても気になって……抑えきれなくて……」 ソルトは腰に手を当てて溜め息をついた。 頭を下げ続けるリオンを通りすぎ、機械の前へ移動する。 「ソルト……?」 リオンは頭を上げると、機械の中の女性を見上げる彼の背中を見つめる。 ソルトは機械の側に置いてある、球体のガラス玉に手を置いた。 コポコポとなる薬品の音と共に聞こえるソルトの声。 「……リオン、これを触ってみろよ。お前の知りたいことも、知りたくないことも、全部教えてくれるから」 彼が触れるその玉は、両手ですっぽりと覆える程の大きさだ。 その中心から、小さな電球のように細やかな光を出している。 「知りたいことと、知りたくないこと……?」 彼が差し出す玉に、指先を当ててみる。 微かに感じる、温かい温度。 「色々聞いてみるといい。……彼女の記憶に」 ソルトは玉をリオンの手のひらに乗せた。 その瞬間、何かが自分の中に入ってくるような、そんな感覚に見舞われる。 頭のてっぺんから足の指先までが、ピリピリと痺れる。 「ソ、ソルト……!」 「聞いてみろ。心を落ち着かせて、彼女に」 「き、聞くって……!?」 リオンは真剣な顔をしたソルトと目が合った。 自分が自分でないようで助けてほしいのに、彼はただ「聞いてみろ」としか言わない。 (聞くって……?) 玉を両手で持ったまま、機械の中の女性を見上げた。 容姿だけならアシュリの方が美しい。 けれど、どこか品性を感じさせられる顔だ。 リオンは目を閉じた。 玉を自分の胸元に、そっと押し当てる。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加