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「てめぇなんかに俺は殺れねぇよ」
その言葉を聞くと、グルーヴは高らかに声を上げて笑い出す。
ユイランの髪は掴んだままだ。
「確かに! 確かに僕はお前を殺せない! 君は王子でもあるからさっ!」
彼の笑いは止まらない。
腹を抱え、笑いを堪えようとさえする。
(グルーヴ、様……何がおかしいの……?)
雨と風の音が聞こえる、この部屋の中で交わるグルーヴの笑い声は何とも不気味で、ユイランもリオンも彼を見ていた。
「くくっ、そうさ。僕はお前を殺せない」
グルーヴはユイランの前髪を放すと、その両手をまじまじと見つめた。
「だから僕は……お前が許せない。人に危害を加えるだけのお前が、何故のうのうと生きている!?」
グルーヴはまたユイランの髪を掴み上げると、その手を左右に振り回す。
パラパラと、何本かの黒い髪が抜け落ちた。
「グルーヴ様止めて下さい……!」
リオンは二人に駆け寄ると、グルーヴの腕にしがみつく。
だが所詮は女の力、男の力に敵うはずもない。
グルーヴは彼女の声に耳をかさず、ユイランに言った。
「憐れな! 自分の存在意義を見つけようとしているなら、すぐに諦めたまえ!」
彼は乱暴に髪を放すと、今度はユイランの首に手をかけた。
「ふん、三角の刻印か……。隠の気を抑えるため、か? こんなもの、只の気休めだね!」
「グルーヴ様! もう、もうこれ以上は……」
思わず荒げたリオンの声に、グルーヴは驚いたように目を見開いた。
ユイランも薄く目を開き、彼女を見る。
彼女には耐えがたいものであった。
(もうユイランを苦しめないで……)
強く強く、グルーヴの腕にしがみつく。
彼はユイランから手を放すと、その手をそのまま彼女の頭へとやった。
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