第16章

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「……すまない姫君、驚かせてしまったようだね。これ以上はもう止めるとしよう」 (良かった……) リオンは力を緩め、彼から離れた。 「これ以上こんな所に居ては、隠の気で僕が殺されてしまうからね」 ユイランは何も言わず、ただグルーヴを睨みつけている。 「姫君、君はどうするんだい?」 その場に佇むリオンに、出て行こうとしたグルーヴは声をかけた。 ドアノブを握ったまま、彼女の返答を待っている。 「あ、えっと……」 (どうしよう、仕事……) なかなか返事を出さないリオンに、グルーヴは腰に手を当てて首を傾げた。 「そういえば姫君は、こんな所に何の用があって来たんだい? 大切なことかい?」 「あ、はい。私はユイランの……」 「ただの冷やかしだ」 ユイランの付き人。 そう答えようとしたリオンを、ユイランはピシャリと遮った。 まるで彼女が何を言おうとしたのか、わかったように。 (……ユイラン?) 眉を潜める彼女を、ユイランは睨みつける。 「さっさと散れよ。毎日毎日ばかにしやがって」 (ユイラン何を言っているの……?) 全く訳がわからず混乱するリオンの背を、グルーヴは外へと押す。 「はっはっは! 今日はこの辺で勘弁しておいてやろうではないか、姫君!」 (ユイラン……!?) 部屋を出て行く最後まで、ユイランの言動が理解できなかった。 心を開きつつあると思っていたユイランが、まさか自分までグルーヴと一緒にされてしまうとは。 廊下に出ると、グルーヴは堪え切れないと言ったように笑い出した。 「くくくっ、面白かったね! 僕の言葉に何の反論もしなかった! 認めてる証拠だね!」 リオンの隣で、グルーヴは高らかに笑う。 まるで、鬼でも見ているような光景であった。 彼が笑う度、ユイランが蔑まれる度に痛むリオンの心。
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