第16章

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(ユイラン……。まだ私のこと信用してくれてないの……?) 最近は、幾分か口を訊いてくれるようになったというのに、思い上がりだったのだろうか。 「……」 悲観的な彼女に向ける、グルーヴの疑惑の目。 それは鋭く、獲物を捕えようとしている獣のような目つきだ。 「……ねぇ姫君」 グルーヴの足がゆっくりと止まる。 つられて彼女の歩む足も止まった。 彼は依然として変わらない。 「君は、本当はあの化け物の部屋に何しに来たんだい?」 「……え?」 『何を』しに。 リオンはユイランの付き人として仕事をしに行ったが、それは出来ずに終わり。 「化け物は姫君を『冷やかしだ』と言っていた。だが、姫君の今の様子を見ている限り、そうは見えなくてね」 何という洞察力なのだろうか。 廊下に出てから数メートル歩いただけで、彼女の心情を見抜いてしまった。 射抜くような目つきに耐えることができず、彼女は口を開いた。 「私、ユイランの付き人なんです」 グルーヴの瞳孔が開く。 「さっきは仕事をするためにユイランの部屋に……」 そこまで言って、ふと視界にいるグルーヴを見た。 手で口を押さえ背を丸くし、心なしか肩が小刻みに揺れている。 「グルーヴ、様……?」 「……くくっ、ははは……っ!」 ユイランの部屋に居たときよりも大きな笑い声。 狂ったように、自我を忘れてしまったかのように声を上げる。 「何が……何がそんなに可笑しいんですか!」 笑い声に負けない程の声を発したリオンに、グルーヴは冷めた目を向ける。 「……くくっ、可笑しいさ! 化け物をもう一人見つけたんだから!」
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