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二重人格者。
黒の妖精の前ではたちまち悪魔に早代わり。
そして、黒の妖精を庇う者に対しても。
「そうかいそうかい、姫君はあの化け物の付き人か! なるほど、だからアレも希望を捨てず生きているんだね、君がいるから」
ピタリと笑うのを止めたグルーヴに、リオンは背筋が冷えていく。
焼却室で会った彼とは違う、まるで別人を見ているようだった。
「君が付き人なんてするから、アレは夢を見る。『俺はこの世に居ていい存在なんだ』と」
彼がユイランの部屋で言っていた存在意義。
彼がこだわること。
「黒の妖精はこの世に存在することを許されない。幸福になるなど言語同断!」
リオンは思い出していた。
まだ母親が生きていたときのことを。
小さな家でたった二人、暮らしていたときのことを。
(私は、お母さんが居て良かった……)
母親は黒の妖精。
勿論そのせいで友達など作れなかった。
人の顔色ばかり窺って過ごしてきた。
――けれど。
「私は、そんなことないと思います。誰にだって、幸せになる権利は……生きる権利はあると思います」
母親が居たからこそ、今の自分がある。
今までも、そして今もある自分の居場所。
「やはり、君は所詮化け物の付き人だ。黒の妖精が居るということは、この国が滅んでもおかしくないということだよ」
言うとグルーヴは、彼女の頬に片手を添えて、呟いた。
「……君が国を滅ぼす手助けをしているということ、わからないのかい?」
低くて暗いその声は、リオンの真髄を震わした。
「付き人なんて、さっさと止めたまえ」
心臓が、早鐘を打つ。
頭が、割れそうに痛む。
目の前の人物が、二人、三人に見える。
「……っ」
リオンは床に跪をついた。
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