第16章

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二重人格者。 黒の妖精の前ではたちまち悪魔に早代わり。 そして、黒の妖精を庇う者に対しても。 「そうかいそうかい、姫君はあの化け物の付き人か! なるほど、だからアレも希望を捨てず生きているんだね、君がいるから」 ピタリと笑うのを止めたグルーヴに、リオンは背筋が冷えていく。 焼却室で会った彼とは違う、まるで別人を見ているようだった。 「君が付き人なんてするから、アレは夢を見る。『俺はこの世に居ていい存在なんだ』と」 彼がユイランの部屋で言っていた存在意義。 彼がこだわること。 「黒の妖精はこの世に存在することを許されない。幸福になるなど言語同断!」 リオンは思い出していた。 まだ母親が生きていたときのことを。 小さな家でたった二人、暮らしていたときのことを。 (私は、お母さんが居て良かった……) 母親は黒の妖精。 勿論そのせいで友達など作れなかった。 人の顔色ばかり窺って過ごしてきた。 ――けれど。 「私は、そんなことないと思います。誰にだって、幸せになる権利は……生きる権利はあると思います」 母親が居たからこそ、今の自分がある。 今までも、そして今もある自分の居場所。 「やはり、君は所詮化け物の付き人だ。黒の妖精が居るということは、この国が滅んでもおかしくないということだよ」 言うとグルーヴは、彼女の頬に片手を添えて、呟いた。 「……君が国を滅ぼす手助けをしているということ、わからないのかい?」 低くて暗いその声は、リオンの真髄を震わした。 「付き人なんて、さっさと止めたまえ」 心臓が、早鐘を打つ。 頭が、割れそうに痛む。 目の前の人物が、二人、三人に見える。 「……っ」 リオンは床に跪をついた。
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