第16章

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以前にも感じたことのある体の異常。 「おやおや、今になって隠の気が回ってきたのかい?」 「……っ」 呼吸がまともにできない。 確か以前は、このまま気を失ってしまったが、今回ばかりは倒れることはできない。 この男の前では、絶対に。 倒れない。 「……ふむ、君は隠の気を受けやすいようだね」 グルーヴは彼女に合わせて座り込むと、薄笑いを浮かべた。 「ねぇ、何故君はそんなに隠の気を受けやすいんだい?」 「……!」 「何か特別なことをしたとか」 リオンの心臓の早鐘は、更に速度を速める。 異常なまでに黒の妖精を嫌う彼の前で、もし火薬遊びに連れて行ったと言ってしまったら――。 リオンは下を向いて、ただ呼吸をすることに専念した。 少しでも気を緩めれば、一気に自分の意識を手放してしまう。 「ふーん、答えないか……。だったら僕は君が付き人を辞めると言うまで、モーションをかけるよ」 (ユイラン……) 今、彼女は理解した。 ユイランが自分を『冷やかし』だと言った訳が。 (……そっか。ユイランは守ってくれようとしたんだね) グルーヴに『付き人』であることをバレないようにする為に。 グルーヴから因縁をつけられないよう、自分自身を貶めることによって。 「……グルーヴ、様。どうして……そこまで黒の妖精を嫌うんです、か?」 「……」 「あなたは、おかしい。黒の妖精だって……人間、です。人の心、持ってます」 息も絶えだえに訴えるリオン。 彼はその場に立ち上がると、彼女を見下す。 「僕はね、これでも一国の王子さ」 肩にかかった自分の長髪を、グルーヴは鬱陶しそうに手で払った。
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