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とある地方銀行に勤めるオレは、飲み会の後で上司に無理やりキャバクラに連れていかれ、そこで絹代と出逢った。
華奢なわりに艶っぽく、何より昔片想いした女に雰囲気がよく似ていた。聞き上手、話し上手の絹代に夢中になるまでそれほど時間はかからなかった。
絹代に逢いたくて何度も通っていると、やがて連絡先を渡された。店には黙って二人で会うようになり、肉体関係も持った。夢のような時間だったが、それが地獄の入り口だとは、その時は知る由もなかった。
ある日、どうしてキャバクラで働いているのかを絹代に尋ねた。聞けば、父が借金を残して夜逃げし、母は重い病気でずっと入院しており、多額の金が必要なのだという。しかしキャバクラの稼ぎでは限界があり、もっと稼げそうな風俗に転職しようか迷っているのだという。
絹代と結婚したいとさえ考えていたオレは、何とか彼女を援助してやりたかったが、趣味のギャンブルのせいで貯金はほとんどなかったし、月々の給料から捻出できる額も限られていた。おまけに両親との関係は良好とは言えず、協力してくれないのは目に見えていた。
魔が差したのだ。顧客の預金を横領し、絹代に与えた。いずれ自分のボーナスなどから補填しておけばバレないだろう。そんな甘い認識で。絹代は涙して喜んでくれた。はっきりとは伝えなかったが、それがやましい金であることは彼女もわかっていたはずだ。
一度ではとても足りず、オレは複数の顧客から少しずつ着服を繰り返した。もちろん、自分が破滅への道を歩んでいるという自覚はあった。しかし、絹代の切なげな瞳を見ると、罪を犯してでも彼女を助けてやりたいという思いに駆られてしまうのだ。彼女のためなら自分の人生など、命など差し出しても惜しくはないと。
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