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「皆さん無事ですか?」
狼は一度自らの剣を大きく振って、刃に付着した血液を払う。
「え、ええ。狼くんこそ。大嶽丸に攻撃を受けていましたよね」
「砲撃? わては殴られただけや、問題おへん」
相変わらずの様子に思わず緊張が緩みそうになる桃舞。そんな桃舞を見てくすり、と笑う狼は振り返り、残された大嶽丸の胴体を見定める。鬼の体はもう既に、大儺儀の呪力により足首を残してこの世から消えようとしていた。ただ一つ、切り離した鬼の首だけ少し離れた位置にサッカーボールのように転がっていた。
「これで終わりですね。剣も回収しましたし」
そう言った狼の背には、いつの間に回収したのか大嶽丸の持っていた霊剣が狼の剣の鞘と共に背合われていた。
「回収? 待ってくれ。その剣の処遇に関しては話し合いたい」
久遠が怪我でボロボロの体を推して一歩前に出ると、それに張り合うようにホタルが狼の前に立ち久遠と向かい合った。
「申し訳ありませんが。こちらの刀は西洞院の家で引き取らせていただきます」
「ホタルさんいくらなんでもそれは勝手すぎるのでは」
桃舞が反論しようとすると、ホタルは鋭く叱責する。
「有隆様が亡くなった今。私の言葉は彼の代理と等価、陰陽博士の意思と心得なさい。倉橋桃舞殿」
ぐ、と桃舞は思わず黙ってしまう。もちろんホタル自身、西洞院有隆の代理を任命された訳ではない。だが、既に本人がこの場にいない以上、誰もそれが真実か否か確かめる術を持つ者はいないのだ。そして、陰陽博士の意思と断言されてしまえば、その下についている桃舞は何も言えなくなってしまう。虚言も、他人に悟らせず貫き通せば真実と何も変わらない。
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