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ホタルの言葉から感じた強い意志に、久遠は彼女が考えている事を僅かだが察する事が出来た。主人を失った今、彼女自身の立場を維持するためにも、明確な『結果』が求められるのだろう。儀式成功だけでも十分ではあるが、その上で大嶽丸の持っていた霊剣を手に入れたとあれば彼女の手柄はとてつもなく大きなものになるだろう。それを踏まえた上で、久遠は語気を強めて言う。
「君にどんな事情があろうが。悪いが俺もその刀には用があってね。そう簡単には引き下がる訳にはいかない」
「拒否するのなら力づくで従わせるまでです。今のあなたなら私と狼さんでも十分」
ホタルの言葉に、久遠の横に控えるヨミが身構える。久遠は蛍の背後に立つ狼に視線を向ける。
「なるほど。既に結託済みな訳ね」
すると、ホタルの後ろに立っていた狼が口を開いた。
「すまへんな久遠はん。ほして、ホタルはんもそんな気張らんでもよろし」
「何を……」
ホタルは、背後に立つ狼の気の抜けた返答が気にくわなかった。しかし、その後に狼はにこりと微笑み言ったのだ。
「そもそもこの剣はわてのもんや。誰にも渡す気はない」
疑問を口から出す暇すら与えてはくれなかった。
トス、と軽い音と共にホタルの背中に刃が突き刺さっていた。狼の右手に握られていた、先程鬼を両断した彼自身の霊剣だ。ホタルは驚愕の瞳で狼の顔を凝視する。
その場にいた誰もが意表を突かれ、反応できなかった。狼はゆっくりとホタルの背中から剣を抜く。
「久遠!」
「っ!」
ヨミの言葉に即座に臨戦態勢に入る久遠だったが、目の前にいる狼が目にもとまらぬ速度で四度刀を振るった。それだけで彼にとって十分だった。
気づけば、久遠・ヨミ・桃舞の背に斬撃による傷が生まれていた。いつ切られたのか理解が追い付かない。狼は確かに今も目の前に変わらず立っているというのに。
その場に平然と立つのは狼のみ。その惨状を見て、狼は可笑しそうにくすくすと笑みをこぼした。
「良い眺めですね。白臣はんと朱里はんも始末しましたし、これで第一段階は完了や」
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