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※短編は本編を読んでから読むことをお勧めします。
ネタバレや、次の話へ関係ある内容のものもあります。
アリエスは昔からウォーヴァ―が好きだった。それは、今でも変わらない。
ヴェルリオ王国ヴェルオウルに来る前、ウォーヴァ―とアリエスは森の中にある名も無い村に住んでいた。多くの獣人が住んでおり、人よりの者と半々だった。
ウォーヴァ―とアリエスの家は隣同士で、遊ぶときはいつも一緒だった。アリエスにとってウォーヴァ―は兄であり、ウォーヴァ―にとってアリエスは妹だった。5歳も離れていれば、お互いそう思っていてもおかしくはなかった。
しかし、年齢を重ねていくうちにアリエスには別の感情が芽生えてしまったのだ。それが、恋愛感情。
自分達の周りには、他にも同年代の友人はいた。しかし、彼らには恋愛感情が芽生えることはなかった。この思いは、気の所為ではないのか。兄に対するような気持ちを、恋愛感情と勘違いしているのではないのか。そう思った。
何日も何ヶ月も悩んだが、それは恋愛感情であるとアリエスは思った。だが、その思いを告げることはなかった。この思いを告げてしまったら、今のように接することができなくなってしまうと思ったのだ。アリエス自身がそうでもあるが、きっとウォーヴァ―も変わってしまう。だから、言うことはなかった。
ウォーヴァ―への思いに気がついてからも、ずっと言わずにいつも通りに接していた。しかしある日、ウォーヴァ―が打ち明けてきたのだ。
「俺は、ヴェルリオ王国に行く」
「どう、して?」
アリエスは動揺を隠しきれなかった。ウォーヴァ―はずっとこの村にいるのだと思っていたのだ。自分もウォーヴァ―もこの村で育ち、年老いて死んで行くものだと思っていた。それなのに、ウォーヴァ―は出て行くという。
しかも昔、獣人が奴隷とされていた国に。今現在はそんなことはないと言っても、街の人間の獣人を見る目はきついものがあると以前ヴェルリオ王国へ行っていた人が言っていた。
たとえ奴隷でなくなったとしても、人間は自分達より力が強く身体能力が高いものを認めることができないのだ。それは、怖いからだろう。
ウォーヴァ―はそんな国へ行くのだという。差別を受けるのは目に見えている。もしかすると、密かに奴隷にされている獣人がその国にいるかもしれないというのに。
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