第二話 幻の雪華

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 私は彼の誘いのままに、大きな杉の木の幹に寄りかかりながら弟との件、それ以降から今に至るまでを話している。彼は真剣に耳を傾けてくれた。  真っ白い世界に、純白のスキーウェアーの彼。雪の化身みたいに不思議な輝きを放って見える。白を背後に何かを見ると、残像が浮かび上がる、あの現象だろうか? 不思議だった。私達だけ切り離された空間にいるように温かな空間だった。まるで鎌倉の中にいるような、静で温かな雰囲気に似て居る。 「ふーん……そっかぁ。まぁ、慰めにしか聞こえないだろうけどさ、その弟君は天命だと思うし。誰の事も恨んでないと思うよ。むしろ短い期間に色んな事を全力でやって生きたと思うから気にして無いんじゃないかな」  彼は話を聞き終わるとそう切り出した。穏やかな口調だけれど、何故か妙な説得力があるのは、彼の背後が輝いて見えるのとその瞳が、聖人みたいに澄み切っていたからだろうか? 「ご両親にしてもさ、それ、お姉さんの事を責めて恨んでるんじゃなくて、仕事仕事と弟君の事を全部真理姉さんに任せっきりだった自分達を責めてるんだと思う。真理ねぇに十字架を背負わせてしまった自分たちをね。だって、一度も怒られなかったろ?」 「……それは、そうだけど……」 「だろ? 変に深読みするから、曲解してるだけだって!」  あれ? 私、名前は言ってないのにどうして知ってるんだろう? 無意識に言ってたのかな……。彼の言葉は、凍てついてさび付いた私の心を少しずつ溶かして行く……。もしかして、彼の言う通りかもしれない、と思ってしまう不思議な説得力を持つ言葉だった。 そしてやっぱり初対面の筈の彼が、前から知ってたみたいにどこか懐かしい感じがした。
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