第二話 幻の雪華

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「真理ねぇ、弟君はさ、元気に笑って生きて欲しいって思ってるさ。父ちゃん母ちゃんにもさ。みんな、天寿を全うしてよ、て。じゃないと、心配で心配で次に生まれ変われないじゃん」 「え? どういう事?」 「ごめん、もうそろそろ行かないと。あんまり時間が取れなかったんだ。次に生まれ変わる準備の前に、少しだけ時間貰ってさ……」  知ってる。この子、この照れたように笑いながら、前髪を右手の人差し指と親指で引っ張る仕草、くりくりした茶色の瞳、明るい茶色のサラサラ髪……。 「まさか、まさか頼家……頼家なの? 成長した……」  彼ははにかんだように頷いた。 「姉ちゃんが早まった事しちまうと、俺は生まれ変われないんだよ。つまんないよ。せっかくまた人間に生まれ変われるってのにさぁ。勘弁してよー! 俺は恨んでないし。父ちゃん母ちゃんも真理ねぇの事怒っても恨んでもないのにさ、むしろ罪悪感でいっぱいになってるのに」 「頼家、あんた……」 「泣くなよ。泣きたいのは父ちゃん母ちゃんの方だぜ。これで真理ねぇまで居なくなったらさぁ、立ち直れないよあの二人」  彼は右手を伸ばし、私の目元を拭った。気づかない内に、涙が溢れていたみたいだ。 「ごめん、もう行くね。真理ねぇ、元気でね。また新しい白の世界から、真理ねぇの色に染めていけばいいさ。それは真理ねぇ限定の白なんだから……」  弟はふわりと天に浮かび上がった。まるでその背に、真っ白な翼が生えたように見えた。 「待って! 頼家、私……」 「楽しんでいっぱい笑って、元気な可愛いおばあちゃんになれよ!」  そのまま、弟はパール色の光に包み込まれた。そのあまりの眩しさに目を閉じる。
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