第二話 幻の雪華

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 ハッと目を開けたら、そこは静かに広がる純白の大地。クリスマスツリーみたいに雪を被った木立。雪は止み、分厚くて巨大な綿あめみたいな雲の切れ間、恥ずかしそうに顔を覗かせる優しい青空。綿菓子が薄くなった隙間から、零れ落ちるお日様の光。それが天使の梯子となって、天空を彩っていた。雪原がキラキラと宝石のように煌めく。  弟との会話は、もしかしたら死へ(いざな)う睡魔が見せた幻かもしれない。足跡は私の分しかなかったから。けれども不思議と、心はスッキリと晴れやかだった。同時に、死へ向かおうとしていた気もちが、生きる勇気へとそのベクトルを変えていた。何よりも、彼の言葉が私の胸の中で希望の炎となって根付いた。それは決して消えない灯となるだろう。  もし幻だったにしても、弟は私を恨んではいないだろうと思う。何故なら、そのまま死ぬことを許さなかったからだ。この際、都合良く解釈しちゃおう、いいよね? 頼家。 ……鈍感力&都合よく解釈。これ、生き抜くコツだぜ……  弟の冗談めかした声が、聞こえたような気がした。頼家なら、生まれ変わっても楽しく人生を謳歌出来るに違いない。どんな境遇に生まれてもきっと。そう思ったら、目の前に広がる雪原は、真新しい純白の地図に見えた。  もう一度、歩き始めてみようか? 歩いた後が、きっと何かの絵になっている。下書き通りに描けなくてもゲシュタルトの絵みたいにきっと、後から降り返ってみたら何かの形になっているだ、きっと。いや、例え形になっていなくても、それは私だけの芸術作品なのだ。 「頼家、有難う。何とかやってみるよ。心配しないで元気に生まれ変わるんだよ」  空に向かってそう呟くと、踵を返した。太陽が、雲の隙間から一気にその姿を現す。純白の大地がキラキラと一筋の道を照らし出した。それは、白い光の道となって私の行き先を示していた。 ~完~
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