第一話 追憶の雪

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 純白でふわふわの小さな妖精が、ふわり、ふわりと空に舞う。雪蛍だ。体のわりに大きな漆黒の瞳、儚げな透明の羽。幼い頃は、本気で雪の妖精だと思っていた。彼らが舞うと、ほどなくして空より不香(ふきょう)の花が舞い降りる。  故に、正直なところ今でも雪花の化身なのではないかと感じている。  ホーッと大きく溜息をついた。息が白い、そして瞬時に凍ってしまいそうだ。そしたらそれは溜息をつく度に、また息を吐く度に雪の結晶となるだろうか? こんな私の吐き出す息も白く見える。冷酷なまでに澄み渡り、鋭利な刃物のように凍てついた空気には。息を吐く度にそれが銀花と化したなら、どれほど幻想的な世界となるだろう? そうすれば少しは「生きる」と言う事に希望を見出せる人が増えるのではいか。少なくとも、未来に光が見えない人にとっては……。  私は、純白の大地に溶けてしまいたかった。  深く深く振り積もる冷たい白は、地上のあらゆる穢れたものを覆い隠すだけでなく浄化して清める、言わば禊に思えたのだ。それは、大いなる存在が人間に許した贖罪の期間なのだ。だから、北の国を選んだ。そこで、身も心も浄化し何もかも忘れて真っ白な(ぜろ)の状態になれたなら、もう一度生き直す事が出来たなら……。  本当にそんな事が出来るのなら、どんなに良いだろう?
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