第一話 追憶の雪

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 ためらいがちに舞い降りていた雪は少しずつその存在を大きく、そして絶え間なく大胆になってきていた。灰色の天を仰ぐ。真っ白な絵の具に、薄墨色をほんの一滴。水分を沢山含ませた筆で混ぜ合わせたような色合いだ。そこから絶え間なく純白の花が降りそそぐ。六花、銀花、雪花、不香(ふきょう)の花……雪の別名を聞いた時、空から白い花が降るとは、なんと神秘的なのだろう、と感動したものだ。  額が、頬が冷たい。前髪も睫毛きっとゴワゴワになっていると思われるほどに雪まみれだ。白のセーターとパンツ、そしてフード付きロングコート、手袋、白のロングブーツ、耳あて、マフラー。全て白づくめの私。フードを目深に被り直す。皮膚が直に出ている部分は、痺れるほどに冷え切っていた。  色では白も好きだった。雪を連想させ、身に着けるとどうしようも無い自分をリセット出来、生まれ変われるような気がしたから。そして、望まれるままに他の色に自在に染まる事も出来るから。例えば、両親が私に望む色に、白ならすぐに変えられる。パパとママが溺愛していた弟の頼家のように、と望むなら瞬時に性別を変え、容姿も性質も頭脳も身体能力もコピーしたように変えられる。  足取りが重い。気づけば周りはピュアホワイトの世界になっていた。木立に積もる雪、足元は20cmほど白く覆われ、足跡がすぐに雪の花ですぐ埋まってしまう。  このように、私と言う人間も最初から無かった事になれば良い、そう思って、北国のこの雪原を選んだ。ついひと月ほど前は、緋色の紅葉、金色の銀杏、草紅葉に彩られた場所が、今は銀世界と呼ばれるそのものへと変貌と遂げている。  私は久野真理(ひさのまり)、N県の文系私立大一年。二つ年下の弟頼家は、彼が八歳の時に星となってしまった。夏休み、二人で一緒に行った市民プールで……。  
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