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「気をつけろよ」
相棒のワモンの声が背中越しに聞こえてきた。
脳裏にかすかなデジャヴを覚える。いや、気のせいだ。いつものやりとりにすぎない。自分にこう言い聞かせる。
「ああ」
素っ気ない返事をする。
大胆かつ慎重さを要する俺の仕事に、気をつけろ、という言葉は野暮だ。
「嫌な予感がする」
ワモンはまだなにか言い足りないのか、静かに告げた。
「クリスマス前だからか?」
「いやその……ちゃ、茶髪の女に近づくな」
「は? なんだそれは」
「わからん。ただ、妙な胸騒ぎがする。ヤマト、今日はやめておいたほうがいい」
「戯言だな」
俺は一蹴し、そのまま歩を進めた。稼ぎどきを逃すほど俺はバカじゃない。
休日で賑わう繁華街。人ごみの中に紛れ、俺は獲物を探す。
笑顔を振りまくキャッチセールスマン、路肩のジベタリアン、ペアルックのアベック、ケーキ売りのサンタ、有名店の行列。ここに俺好みの獲物はいないようだ。
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