殺人 ⑩

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殺人 ⑩

「ふ~ふふ~ん。ふ~ふふ~~ふ~」  随分と機嫌がよく、鼻歌交じりの細い声が波の音に飲み込まれる。 「ふ~ふふ~ん」  他に聞こえてくる音と言えば、ザク……ザク……と軽快なリズムを奏でる砂の音。  時たま聞こえてくる不協和音は、スコップと貝殻がこすれる音。 「ふ~ふふ~~ふ~」  何度も何度も繰り返す。何度だって何度だって、気の向くままに人を殺してしまう。  でも今回は、少しだけ理由が違った。  いつも殺すのは、純粋な殺意を覚えた者だけ。  今回は例外。言うなれば……正当防衛? 「ふ~ふふ~ん……ふー」  サイコパスは、手の動きを止め、鼻歌もミュートにし、一息つく。  ――海は好き。  特に、夜の海は最高。  散らばった星を一つ一つ数えて、キリがないことに気づいた幼少期。その時から自然と、波の音に誘われるように海を眺めていた。  初めては、高校生の秋。  仲が良かった友達が嫌なことをしてきたのがきっかけだった。  どうしてそんなことになったのかは、あまり覚えていない。  覚えているのは、友達の粘液を綺麗に洗い流してくれた海の穏やかさ。 「ふ~ふふ~ん」  冷たかったけど、優しかった。     
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