1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
殺人 ⑩
「ふ~ふふ~ん。ふ~ふふ~~ふ~」
随分と機嫌がよく、鼻歌交じりの細い声が波の音に飲み込まれる。
「ふ~ふふ~ん」
他に聞こえてくる音と言えば、ザク……ザク……と軽快なリズムを奏でる砂の音。
時たま聞こえてくる不協和音は、スコップと貝殻がこすれる音。
「ふ~ふふ~~ふ~」
何度も何度も繰り返す。何度だって何度だって、気の向くままに人を殺してしまう。
でも今回は、少しだけ理由が違った。
いつも殺すのは、純粋な殺意を覚えた者だけ。
今回は例外。言うなれば……正当防衛?
「ふ~ふふ~ん……ふー」
サイコパスは、手の動きを止め、鼻歌もミュートにし、一息つく。
――海は好き。
特に、夜の海は最高。
散らばった星を一つ一つ数えて、キリがないことに気づいた幼少期。その時から自然と、波の音に誘われるように海を眺めていた。
初めては、高校生の秋。
仲が良かった友達が嫌なことをしてきたのがきっかけだった。
どうしてそんなことになったのかは、あまり覚えていない。
覚えているのは、友達の粘液を綺麗に洗い流してくれた海の穏やかさ。
「ふ~ふふ~ん」
冷たかったけど、優しかった。
最初のコメントを投稿しよう!