最後の夜はお行儀良く

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死傷者なり、建築物が破壊されるといった被害は、全く発生していないのである。 やがて、通行人の中には冷静さを取り戻した人物が現れた。 彼は依然として錯乱しつづける人へ向けて、大きな声で制した。 「安心しろ! これは静電気だ!」 その言葉は妙に鮮明だった。 そして、拍子抜けな事実であった。 てっきりテロリストなり、サイコパスな犯罪者に襲われたと思いきや、ただの自然現象だというのだ。 やり場の無い怒りとともに悪態をつき、群衆が警戒を解くが……。 ーーパシィン! 問題は何も解決していなかった。 金属製品に触れるたび、あるいは誰かと触れ合うだけで大きな音が鳴った。 当然痛みも伴う。 火傷するほどでない事は幸いだが、歓迎したくなる刺激とは程遠いものだ。 「みんな、派手に動くな! スマホもしまっておけ!」 その言葉は的確であった。 下手に動き回ってぶつかり合えば、無用な騒ぎを引き起こしかねない。 スマホも今の状態で操作したならば、最悪故障してしまう可能性もある。 誰もが息を飲んで成り行きを見守った。 そして、大抵の人はこう考えた。 ーーこの騒ぎはいつ収束するんだ? もちろん、答えを持つ者などいない。 今は最も安全と思える対策を粛々と執り行うだけだ。 若者の街は大晦日の夜とは思えない静けさに包まれた。     
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