新しい私へ

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伊藤ヒナ、改め私、伊藤日向(ひなた)は限界だった。全ての人が“ひな”を通してしか自身を見てくれないことに。 私はひなじゃない!日向なのに!! そんなに笑えない、明るく振る舞えない、逆境に強くない、勉強も運動も出来ない、完璧でいられないっ………! 日に日にその思いは強くなり、役者を辞め、転校した。両親は日向の為になるのならとワガママに付き合ってくれた。 そして、顔バレを防ぐ為にマスクを身につけるようにした。マスクだけでは不安だった為髪を切った、外では常にメイクを施すようにした。 こうして見た目を変え、マスクで防御する事で伊藤日向として生活する事が出来るようになった。 そうして日々は過ぎ、私は社会人となった。あいも変わらずマスクは欠かせないが親戚の経営する会社にちょっと………コネで入社させてもらい、マスクは顔に大きなキズがある為外せないと社員の皆さんに伝えてもらった。 幸い、コネ入社と貶されないよう努力した事もプラスにはたらいたのか、悪質な人はおらず、マスクを付けたままでも何も言われることなく働くことができている。同期の面々もマスクの理由を知らなくも、あえて触れずにいてくれている。 仕事ぶりもある程度認められ、任される仕事も増えて充実した日々を送れている、が。 しかしである。 向かいあわせのデスク、その右斜め前方からアツい視線を送ってくるバカがいる。 そう、バカだ。決して頼れる同期とは言えない、手のかかる同期である。 同じ部署に配属となった彼は不真面目な訳ではない、いや偶にダメな時もあるが。うっかりミスや書類の不備、作業の遅れなどでちょくちょく怒られているのを目にすると真面目にしなさいよとはちょっと思う。 憎めない性格をしており、少し手のかかる部下として可愛がられている彼であるが、私としては厄介な性質を持ち合わせている。
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