新しい私へ

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時は過ぎ、12月25日。恋人たちにとって特別な日に、私と彼は一緒にいた。未だにマスクは外せていない。でも彼はそれでもいいとマスクごと私を受け入れてくれた。 まぁそれまでに紆余曲折あったが、ホントに。もうほぼ足にまとわりついて構ってくれるまでじゃれ続ける犬のように、社内で私のコーヒーを入れてくれたり、ものを持ってくれたりその他色々………折れました、忠犬よろしく私に尽くす彼に、そして付き合いました。 手を繋ぎ、ハグをして、それ以上の事をしてもマスクの関係上キスだけはしなかった。残念そうな気配はダダ漏れていたが彼は何も言わずにいてくれる。 彼といる時は飲み物しか口にしない為、いつも彼は私がガリガリになってしまうんじゃないかと心配してる。そして会うと必ず一度は私を抱きしめ体型を確認してる。太らないようにも気をつけよう。 優しい彼に甘えきってる私は、優しさに惚れ直すと共に罪悪感も募らせていた。 マスクは私の一部だ、付けている状態で伊藤日向でいられる。 でもマスクが無くても私は私、伊藤日向である。 彼に隠し事をしている。その想いが心に影を差す。 考え込んでしまった私に気づいたのか彼はそっと繋いでる手を優しく引き、近くにあった公園へと足を進めた。少し通りを外れたところにあるからか人の気配はなく、小さな公園には冷えたベンチとブランコが寂しく佇んでいた。 ベンチへ真っ直ぐ向かい、おもむろに自身のマフラーを外した彼はソレをベンチへ敷き、私を座らせた。座った私を確認すると「待ってて」と一声かけて公園から出てしまった。 あっという間の出来事で、彼が行ってしまったあと我に返った私は慌てて冷え始めていた彼のマフラーをお尻の下から回収する。
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